ちょっと気になる本が出版されました。「101曲のハワイアンソング」という本です。
その名のとおり、101のハワイ語で歌われている曲の意味を日本語に訳したものです。
購入して目を通しましたが、今までにあった、ハワイアンソングの日本語訳とは違うものでした。
この本をどう読んで、どう理解するべきか、訳者の方に尋ねてみたくなりました。
このような、かなりマニアックな本が出版される経緯にも興味がわきました。
訳者の一人、古賀まみ奈さんは「8011web.com」のイベントにも出演していただいた縁もある方。早速、現在お住まいのハワイに連絡しインタビューをお願いし、実現しました。
ハワイ語、ハワイ音楽研究の第一線にいらっしゃるお二人のお話は、大変興味深いものでした。
【プロフィール】
古川敏明
東京大学とハワイ大学で博士課程に在籍。専門は社会言語学、ディスコース分析、統語論。ハワイにおけるバイリンガリズムについて研究中。対象言語は日本語、英語の他、ハワイ・クレオール(ピジン)、ハワイ語、琉球語など。
古賀まみ奈
東京大学大学院文化人類学研究室博士課程在籍、ハワイ大学博士課程に留学中。
ハワイアンシンガー、フラダンサーとしても活躍中。
-お二人とも現在ハワイ大学に在籍なさっているということですが、どのような活動、研究をなさっていますか?
古川:東京では東京大学の大学院に在籍していまして、現在はハワイ大学の大学院に留学しています。専門は言語学で言葉と文化のことをやっています。特に関心があるのは、バイリンガリズムとかマルチリンガリズムと言われるもので、二つ以上の言語を使う現象や、使うべきであるというイデオロギーの研究をしています。特にハワイにおけるマルチリンガリズムに関心を持っています。
古賀:東京大学の文化人類学博士課程に所属しているのですが、休学してハワイ大学の音楽学科の博士課程に在籍している学生です。研究のテーマはハワイの音楽についてで、他にもオセアニア地域の音楽全般について学んでいます。
-お二人とも矢口先生(注釈:“踊る東大助教授”のキャッチフレーズで有名な矢口祐人教授
→http://8011web.com/yourstory/2006/06/people34.php)の教え子、ということですよね?
古賀:そうです、同じゼミを取っていました。
-今回、「101曲のハワイアンソング」を翻訳する事になったきっかけやいきさつを教えていただけますか?
古川:去年、古賀さんが「Kauatuahine(カウアトゥアヒネ)」というCDをリリースすることになって、それでは二人で何かオリジナルの曲を作ろうということになったんですね。
ハワイ語の詞の作り方などには前から二人で関心を持っていたのですが、本格的にやってみようということになり、いろいろと文献などを調べていたところ、この「Na Mele o Hawai'i Nei」という本にいい情報が載っているのを知って関心を持ちました。
歌の情報などもコンパクトにまとまっているし、最初の部分でハワイ語の特徴などが短く説明してあるので、これは是非日本の皆さんに紹介したらおもしろいかなと思い、興味を持ちました。
古賀:この本の原本を持ってきたのですが、何回かこの本を使ってクムが歌の解説をしている場面に出会ったんです。例えばUHのフラの授業で、この本の中から歌詞を写して使ったりしました。それを見て、フラの先生達にも未だに使われ続けているのだなと思い、この本が一つの情報源、確かな情報源であるという印象を受け、そういったことからこの本を日本の方にも紹介したいなと思うようになりました。
-この本は、ハワイでも古典的な文献として、学校の授業などでも使われているのですか?
古賀:1970年に作られているのですが、未だに使われています。確実な情報源になっているようです。
-著者のお二人はどのような方ですか?
古川:エルバートさんとマホエさんという方が書いていらっしゃるのですが、エルバート教授は、ハワイ大学でポリネシア言語を教えられていた言語学者の方で、例えば今でも広く使われているハワイ語-英語の辞書であるとか、ハワイ語の文法書などハワイ語研究に必須の基礎研究をした中心的な人物の一人として、メアリー・カヴェナ・プクイさんなどと二人でいくつも著作を出していらっしゃいます。
もう一人のノエラニ・マホエさんという方は、ミュージシャンであり、教育者なんですね。例えばカメハメハスクールソングコンテストで審査員をやられるような方であり、長年ハワイ文化、ハワイ音楽の教育に携わってきた方です。お二人がハワイ大学でハワイアン音楽の授業をやられていて、それを本にしようというのがきっかけで、70年にようやく本になった、という事らしいです。
-今回、この本に出会って、「翻訳をさせてほしい」とお二人でお願いにいったのですか?
古川:そうですね。
古賀:ハワイ語の先生もこれを勉強するといいとおっしゃっていたし。
古川:エルバート先生は既に亡くなられたのですが、ノエラニ・マホエさんはまだお元気でいらっしゃっています。
ハワイには他にも古い歌詞集というのがあるのですが、それは一般読者向けというよりも研究者向けのもので、しかもすごく古いですよね。
一般の人はとっつきにくいし、ハワイ大学の図書館にでも行かない限りそういうものは読めないと思うのですが、この本はエルバート教授とノエラニ・マホエさんが一般読者向けに、またハワイ語の知識がちょっとあやふやなハワイアンミュージシャン向けに、これからどんどん盛り上がっていくハワイアン文化をサポートしていこうという意味で70年代に出版され、一般読者向けにオープンだというところが、この本の他の本と違う点だと思うんですね。
-1970年代のハワイはそういう時期でもあったのですか?
古川:そうですね、1960年代にアメリカのメインランドで公民権運動が盛り上がって、黒人、さらにそこからいわゆる少数者、マイノリティーの人々の復権運動が進んでいって、それがハワイにも波及してきました。70年代からいわゆるハワイアンルネッサンスというのがありまして、ハワイの伝統的な文化を盛り上げていこうと、その中でハワイ語もハワイ州の公用語にしようということで、1978年にハワイ語と英語が公用語になりますけど、ハワイアン文化をもり立てていこうという大きな流れの中でいろいろな動きが出てきたのが70年代なんですね。
古賀:60年代後半から70年代、ちょうどその時期ですね。
-この本を訳されている時、どのような意図をお持ちでしたか?
古賀:私は2通りあるのではないかと思っています。時々、ハワイアン音楽を好きな方達が、ハワイ語の歌詞をカタカナで書いているのを見たりすると、できればもう一歩進めて、ローマ字読みに近い読み方で読んで、プラスそこから意味がわかるようになればいいなと思っています。この本でそういうプロセスを踏んでいただければなと。もちろんいろいろな楽しみ方があると思うのですが、ハワイアンミュージック愛好家の方に読んでいただければいいなと思っています。
もう一つは、フラダンサーの方達ですね。曲の歌詞の意味を知りたい方もいらっしゃるし、また曲の背景を知りたいと思う方も多いと思うんですね。この本は歌詞だけでなく、作曲家についてや背景などについても書いてあるので、フラダンサーの方達の助けに少しでもなればと思います。
古川:私はハワイアン音楽について、日本の誰かが日本の読者に伝えると言うよりも、1970年にハワイの人がハワイの人向けにこういう事をわかろうよ、という事で出した本を日本の方たちが読めるような形にするのが大事なのかなと個人的には思っています。
私たちが図書館でいろいろな文献をあたって、「これがハワイアンミュージックです」という入門書みたいなものを書けないことはないと思うのですが、それでは私たちが日本人として語り直すということになってしまい、それはそれで良いとは思うのですが、せっかく良い本があるのだから、ハワイの人の語っているものをまずは最初に届けたいというのはありました。
-翻訳の仕方として、日本語の文章というか、あえて日本語的な解釈を入れずにそのまま訳しているというところはあるのですか?
古川:特に詞の部分は直訳調なのですが、もっとストーリーとしてわかりやすいように訳することも出来るとは思うのですが、歌詞に関しては直訳調にしています。
-元の本も直訳調になっているということは、そこにやはり著作者の意図があるのでしょうか?
古賀:そうですね、自由な解釈で自分たちの本を自由に出すというのとは違うので、翻訳である以上できるだけ書いた方達が伝えたいことそのままを訳したいと思って。だから結構悩んだりもしました。何回も直して言葉をわかりやすくしようとか、例えば、ハワイ語の言葉遊びをしているのを、『英語で翻訳するときにはこういう風に気をつけましょう』と言ってあるのだけれど、それを日本語に訳する時は日本語でどう置き換えようとか。これは翻訳をする人たちにとっては当たり前の悩みなのでしょうが。
日本語の読み物としては少し堅かったり読みづらかったりするのかなと思ったりするのですが、出来るだけ筆者に忠実にありたいという気持ちで取り組みました。
古川:ハワイのフラダンサーやミュージシャン達と日本でハワイに関心を持っている人たちに共通の土台となる知識があったら良いのかなと思ったんですね。だからなるべく、エルバートさんとマホエさんが伝えようとしたことを、私たちの言葉なんだけれど、元のまま伝えられるようにしたい、というのはありますね。
-基本的な質問になりますが、ハワイ語はどういう特徴がある言語なのですか?
古川:ハワイ語自体はポリネシアの言語グループに入っています。タヒチ語とかマルケサス諸島の言葉と音声面でも文法面でも非常に多くの共通点があります。さらに大きい枠でとらえると、オーストロネシア語族という大きな言語のグループに属していて北は台湾、南はニュージーランド、西はマダガスカル、東はイースター島という非常に広い、海を中心とした地域で話されている言語グループということで、ハワイ語と言っても、ハワイ語だけにこういう特別な特徴がありますというよりも、ポリネシア諸島と共通点があり、さらに大きな目で見た場合、もっと大きなグループのひとつだということが一つの特徴です。
あと、音声的によく言われることですが、母音と子音の数が少ないのでシンプルに見えると。シンプルに見えると言っても、わかっていないこともたくさんあって、表面だけ見るとシンプルなのですが、これから研究しなくてはいけないことがたくさん残っているという意味では、ひょっとしたら非常に難しいシステムを持っている言語なのかもしれないという事があります。
言葉の並びでは、日本語、英語、ハワイ語を比べた場合に、日本語における語の並び方が世界で最も多い語の並び方なんですね。主語、目的語、動詞と並びます。その次に多いのは英語で、主語、動詞、目的語。この3つの中で一番少ないのがハワイ語で、動詞、主語、目的語というものです。こういった語順も特徴の一つですね。
-もともと文字自体がなかったところに言語があって、そのうち文字が出来て書き直していくわけですよね?他の言語とは違う、特徴的な書き言葉としゃべり言葉の違いみたいなものはあるのですか?
古川:そうですね、この本に出ているような伝統的な歌というのは、現在話されているハワイ語とは違うハワイ語なんですね。言葉が変わるという意味において、比較的古い形のハワイ語が残っていると言えると思います。
さらにハワイ語がだんだん話されなくなっていく過程でハワイ語自体も変わっていきましたし、先ほどお話しがあったように20世紀末にハワイ語をもっと盛り立てていかなければいけないということで、学校で子供達に対するハワイ語教育が盛んになりましたが、彼らはまたこれまでとは少し違ったハワイ語というものを話し始めているということもあります。
ハワイ語といっても一つしかないのではなく、日本語に方言がたくさんあるように、ハワイ語にもおそらく方言があったと思われますが、研究が進んでいないのでわからないのです。これからですね、例えばニイハウ島で話されているハワイ語はどう違うのだろうかとか。19世紀にハワイ語新聞というものがたいへん数多く出されたのですが、今ではそれを使ってハワイ語の研究をする人も増えてきています。そういった資料を基にするとハワイ語の特徴というのはこれまで以上にわかってくると思います。
-ハワイでもハワイ語の研究は始まったばかり、という状況なのでしょうか?
古川:もちろんエルバート教授などがハワイ語についてたくさん研究されて来たのですが、英語や日本語に比べれば研究としてはまだまだ少ないわけです。さらに先住ハワイアンの人々が、自分たちの言葉や文化を取り戻したいという意識も強くなってきていますので、現在は研究が盛んになってきている途中ですね。
古賀:最近始めてハワイ語に関する博士論文が発表されましたね。
古川:2006年にハワイ語だけで書かれた最初の博士論文が出ました。修士論文では、今まで10個は出ていないと思いますが、ハワイ語だけで書かれたハワイの言語と文化と歴史に関するものはいくつか出ていますね。これからも増えてくるのではないかと思います。
-ハワイ語の音楽的特徴というのは?
古賀:説明するのは、とても難しいことですね。よくぞ質問してくれました(笑)。
私にはなかなか上手く説明出来ないのですが、宣教師がもたらした賛美歌、グリークラブの合唱法、そしてアメリカのジャズやカントリー等のポピュラー音楽の影響を強く受けているのは確かです。ハワイアンミュージックが大衆音楽化して100数十年経っていますが、いろいろな音楽表現方法が取り込まれていて、ハワイアンミュージックの技術は、ある意味すごくインターナショナルだと思うんですね。ハワイは特にメインランドとの関係が深かったので、ミュージシャンもよく移動してメインランドで演奏しているし、日本にももちろん行ったし。でもインターナショナルな面がある一方で、とてもコンサバティブな側面もあります。
タヒチやサモアなどと比べてみても、今の音楽のあり方というのが、シンプルなものを大事にしようという側面があって、あまりリズム楽器は取り入れないとか、楽器の編成にしてもコンサバティブでシンプルな感じがするんですね。音を作るという態度において、ハワイアンはとても保守的だなという印象を持っています。
トラディショナルソングがどういう特徴を持っているのかというと、例えばヒイラベなどは、短いメロディーを何回も繰り返して歌詞を聴かせるというスタイルです。
『ナ・メレ』の中にもありましたが、よく言われるのは歌詞がやたら長くてメロディーが短い。それはチャント等にも共通するのですが、音も2、3音からなるシンプルなメロディになっているものを、何回も繰り返していって歌詞がどんどん変わっていきます。
それが一つのトラディショナルなあり方の特徴でしょうか。
-今のハワイアン音楽はどうなのでしょうか?アメリカのメインランドそのものという訳ではないですよね?
古賀:保守的ですよね、タヒチなどと比べると。例えばコンペティションなどでも特にトラディショナルソングはフラの文脈と切り離せないと思うのですが、競技会に行っても、タヒチの場合はどんどん新しいふりつけや技を取り入れることが奨励されています。
タヒチアンダンスは新しい物に積極的に取り組んでいく姿勢がありますが、フラの場合はある程度の中での自由だと思うんですね。枠があってその範囲内でトライするのはいいけれども、あまりやりすぎるとブーイングが起こる、それが音楽でも言えることで、トラディショナルソングという枠はしっかり死守している側面があると思います。
「ポーラ・フーガ」のようなR&Bの中でハワイ語を入れて歌っている人たちも、ジャンルは違うというような棲み分けをしてハワイアン音楽の中に入ってきています。 ハワイ音楽と一言で言ってもジャンルがいろいろ分かれてきていて、ハワイ語を取り入れることでハワイらしさをそれぞれの音楽で表現し、主張しているように見えます。
-ローカルのハワイ人の血を引く若い人たちなどは、自分たちの文化や言葉を守るというような意識は強いのですか?
古川:どの社会でも言えることだと思うのですが、現代的なものを求めるか、伝統的なものを求めるかといったところで、選択があるんですよね。例えば先住ハワイアンの人たちでも子供を育てている親御さん達が、子供に習い事をさせるにあたって、サッカーやアメフトをやらせようか、フラやハワイアンミュージック、チャントなどもやらせようか、と大きく2つに分かれるみたいですね。
もちろんどこかで子供におじいさん、おばあさん達がやってきた音楽や文化を学ばせたいという思いもあるのだけれど、その一方でもっと広く、フラやハワイアンミュージックよりもアメリカのメインランドも視野に入れて、どういうものを子供に与えたらよいのだろうかと悩んでいるようです。
-昔と比べて選択肢が増えた、ということがあるのですか?
古川:それはあると思いますね。今までは教えようと思っても、誰に聞いたらいいかわからないし、どの資料にあたったらいいのかわからない、というのがあったのでしょうが、70年代以降、そういうものが手に入りやすくなってきた、この本もその一つだと思います。
古賀:フラスクールもたくさんあるし、ウクレレフェスティバルのウクレレの子供達もとても上手ですし。
古川:テレビやラジオといったメディアで目にすることも多くなってきています。選択肢は確かに増えていると思います。
-本の話に戻りますが、この本は、どういう読み方をするのがいいと思われますか?読んだ人が歌詞からストーリーを思い浮かべて良いものなのでしょうか?
古川:エルバートさんとマホエさんがこの本を書いた時に、わかっている事とわかっていなかった事があったと思うんですね。説明が比較的多いものは、ハワイの人達の中で共通の理解があるもの、逆に説明が少ない、あるいは説明が無いものというのはハワイの人達の中でもあまりわかっていないもの、と言えると思うんです。それを日本の人達が歌詞だけをみて自分の解釈でこうなっているに違いないと考えるのは無理があると思うので、わからないものはわからないでいいのではないか、ということが一つ言えると思うのです。
やはり、この本の中にある歌を歌い、踊るクムフラやハワイアンミュージシャン達が彼らの先生達から習ったここには書かれていない知識というのがあるわけですよね。この本に全てが書かれているわけではないし、私たちが著作者をさしおいて書くわけでもありません。
日本のフラを踊る人、ハワイアンミュージックをする人達が、長期的な視点を持って人間関係を大切にしてハワイの人達とつきあっていく中で少しずつ増えていく知識で、さらに理解が深まるのではないかと思います。それを言葉だけで解釈を決めつけたり、急ぎすぎたりしない方がいいと思うんですね。人との関係を大事にして自分の知識が増えていって、というのがハワイアン音楽やフラの楽しみの一つだと考えればいいのかなと感じます。
-日本の事を日本人もわかっていない事があるように、ハワイもまだわかっていない事が多くあるということなんですね。
古川:本格的に学びたい人は、ハワイ大学のハワイ語専攻やハワイアン・スタディーズ専攻に2年もしくは4年通ったりして。ハワイの人達もじっくり勉強しているわけです。専攻自体がこれまでなくて、それを作ろうという模索があったわけですよね、それでようやく勉強する場ができて、子供達を集めて、大人達ももう一度勉強しようということになって彼らも一生懸命学んでいます。
-例えば、日本で、先生にこの歌はこういう意味ですよと言われた時にこの本を見て、ここがそういう意味なんだと意味がわかる。これで何かがわかるというよりも、一つの補助的な役割という感じになるのでしょうか?
古賀:一つの情報源であればいいと思いますね。あくまでもこのお二人が集めてきた情報だとこうなるという。
先生によって教え方も情報も違うし、私がハワイ大学にいる間に何人かのクムとお話する機会があったのですが、それぞれがそれぞれの情報のルーツをお持ちで、必ずしも一致したわけでもないので、AはBなんだと決めつけないで、この人の解釈だとこうなのね、ともう少し緩く、大きく捉えることも重要だと思います。そういう中でこの本も一つの情報源になってくれればいいなと思っています。
古川:19世紀にはハワイ語新聞などがありましたが、量としては膨大な量なんですね。ほんの少ししか翻訳されていなくて、5%以下と言われているのですが、今英語で読める19世紀のハワイの知識人達が書いた本というのもいくつか書店に並んでいるのですが、そういうものは少ししか翻訳されていないところから引っ張られてきて本として再販されたもので。
ということはもっとたくさんあるんですね、95%以上も。それをハワイ語を読める人達が、もしくはハワイ語を勉強している人達が貴重な資料をもっと使ってハワイの言葉と文化の研究をしていこうと、まさに努力しているところなので、この本だけで全てがわかるということは難しいのかなと思います。
-ハワイ語というのは、新しい現代の言葉が出てくると、どんどんハワイ語に置き換えられたり、新しくなったりするのですか?そういう公的な機関がハワイにあったりするのですか?
古川:言葉を作ろうと話し合う人々はいます。ハワイ語のような言葉をどんどん広く使っていこうという時に出てくる問題としては、コンピュータとか飛行機とかインターネットとかそういう新しい言葉をどうするかと、英語をそのまま使うのか、ハワイ語を新しく作るのか、作るにしても英語の音だけ真似るのか、意味だけ似せて違う言葉を組み合わせるのかとかいろいろあるのですが、ハワイ大学のマノア校とヒロ校のハワイ語の先生達が定期的なミーティングをして話し合っているらしいのですね。
エルバートさんが出したのは古い辞書ですけれども、そういう方達が出した新語を集めた辞書というのがあるんですね。そういう言葉自体に賛否両論があって、そんなものいらないという人もいるし、必要だという人もいるし、そういう対立はありますね。言葉をもう一度広く使おうとする場合にはどうしても新しい言葉を取り入れたり作るということは避けて通れない道なのは確かなので、そういう言葉を使ってハワイ語で教育している学校は、新しい言葉も使います。
一方、ニイハウ島でハワイ語を話して育った人達がそういう子供達のハワイ語を聞いてわからない言葉もあるわけですね。それで自分たちがずっとハワイ語を話してきた、というクプナ達からすると、穏やかではない訳ですよね、自分たちの言葉が変わってきてしまっているわけですから。そういう心情的な問題は出てきますね。
技術的には言葉を復活させることは可能だけれども、それを話す人達、使う人達の心の問題をどうするかということは避けて通れないし、今もあるし今後も続いていく問題なんだと思いますね。
-日本とハワイでフラを習われていらっしゃいますが、日本でのフラ環境とハワイでの環境はかなり違いますか?
古賀:日本のフラも温度差がいろいろあると思いますので、一概には言えないのですが、ある意味で技術においては日本のレベルもかなり高いと思います。大勢の生徒さんを統制して、コンペにたくさん出て。日本には大規模のところがたくさんありますが、ハワイではそれほど大規模のハラウはあまりありません。
日本の先生達は教え上手だと思うんですよね。日本のフラはこちらに来てから改めてレベルが高いのだなと思いました。
ただ、ハワイではフラがライフスタイル、人生、生活の一部なんですね。とてものんびりしているのです。日本から来て間もない頃は、のんびりしている事に少し苛立ったりしたんです。例えば今日はゲームですとゲームだけで終わったり、バーベキューだけだったり。曲だけ教えてくれればいいのにと思ったり。発表会などもとてものんびりしているし。 でもそれは自分が受け継いだ事を子供にも伝えていくというような、もっともっと長期的に続く物としてフラが彼らの生活に浸透しているからなんですね。そういうものとしてフラがあるという事を理解して、その考え方に慣れてしまうと、日本の人達が必死に曲を覚えて焦っているのを見ると、なんでそんなに焦るのだろうという気になるんですね。
フラに取り組む姿勢というのはハワイと日本ではとても違っていていると思います。それがフラを踊っている時に出るのかもしれませんね。ハワイの人達のそういう取り組み方が、フラを踊った時に、ゆとりだったり自信に見えたり。ハワイのフラのそういうところがとても素敵だと思いました。
-ハワイでフラをはじめていかがですか?
古川:留学一年目は、フラカヒコの授業をとりました。教え方はのんびりだけど、型一つをとっても、角度がどうだとかではなく、大まかなところを教えてくれるんですね。それで一つ身につけたらOKで、あまり細かいふりを気にすることはないのだけれど、踊ってみるとそれぞれが合っているように見えるというところには最初とてもびっくりしました。
そういう事が可能なのは、そこにいる人達が子供の時からフラやっている人達もたくさんいて、基本ステップはそれなりに出来るし、体の使い方など、今までハワイで育ってきた中で自然になっている部分があるわけですね。そういうのがベースにあるからなんとなくのふりつけでも皆が同じ型のふりが身につけられるようになっているのだなと。
基礎がない私みたいな人間には難しいのですが。いろいろと無意識のうちに身につけている身のこなしとか発声の仕方とかがベースにあるから、細かいところを言われなくても揃った踊りになるのだなと、日本と比べると新鮮に感じました。
-日本でこれだけフラが盛り上がっていて、ハワイよりも習っている人が何十倍も多いという状況になっていて、ハワイでフラをやっている人達にとって、日本についての話が出たり、感想があったりするのですか?
古賀:いろいろな考え方があると思いますね。最初は、日本人がフラをやるのは搾取だという批判が強いのかなと思っていました。そういう考えの人達もいると思うし、特にトラディショナル、ネイティブの運動に真剣な活動家達にとってはそうなのだろうと思いました。特に私たちは学問的な関心からいろいろな文献などを読むことで、そういう考え方がある事も知っていましたし。でも実際はそういう考え方ばかりではないということも知りました。
古川:ここに住んでゆっくり学ぼうとする人達に対しては、彼らはオープンだと思うんですね。ただ、急いで来て、『一週間しかいないのですが、この曲とこの曲を教えてください』というような事は、彼らのペースを乱していると思うんですね。びっくりしてしまう訳ですね。そういうところでは摩擦も生じてしまうけれど、無理しない形でフラが好きでやっていますという態度を示すと、それに対して批判的であることはまずありません。
古賀:私の仲間に、『こんな日本人の子がこれだけ歌えるのだから、おまえ達もがんばれ』というような事をよく言われています。ある程度関係が築かれてくると受け入れてくれるということは感じます、フラに関してもハワイアン音楽に関しても。
古川:最初はどういう人がわからないという事があるわけで、今ひとつ仲良くなりきれないところがあるのだけれど、半年、1年、2年いると、彼らの態度も変わってきますね。「この人達は長期的にいる人達なんだ」とわかると彼らの生活の中に自分たちも入れてもらえる訳ですね。
ハラウのイベントもあるし、家族にも紹介してくれたり。日本で生活しているのと同じ人間関係のあり方ですよね。時間が解決してくれることもあると思います。
もう一つ大切なのは言葉の問題で、日本から来る人の中には、英語が得意な人と苦手意識を持っている人がいると思うのですが、話せないから日本人とだけ話すとか、ハラウにいてもあまりしゃべらないとか、そうすると進む人間関係も進まなくなるので、フラを勉強しに来ても英語を勉強する必要もあるし、どんどん話したり、わからないことは聞いたり、手伝えることは手伝うとか、そういう事からハラウやローカルの人達に溶け込んでいく事も大切だと思います。
-例えば日本のイメージから言うと、お二人の様に東大で勉強しているという事は、競争世界の一番先端を走っていて、日本的社会の一つの象徴のようなものだと言える部分もあると思うんですね。そういう世界からハワイに来て、ハワイの人が受け入れてくれるという事もあるのでしょうが、ご自身が変わっていかれるという部分もあるのではないかと思うのですが、こちらの生活に順応して、スピードに慣れるというような。そういう変化は感じていますか?
古川:ハワイにいるけれどもハワイのペースだけにどっぷり浸っているわけでもなく、ハワイに日本の人もいますし、電話でもインターネットでも日本の情報も入ってくるわけで、同時に二つ以上の世界を生きていると思うんですね。
生活以外でも研究面などで、発表の機会がある中で、日本の学問の世界とかアメリカの学問の世界とか、ヨーロッパに行くこともあるかもしれないし、自分の中で複数のペースに調整していると感じます。もちろん自分が変わっているとも思いますが。
大学から少し行けばワイキキですから。リラックスするための場があるわけですね。
私たちは大学で勉強している身ではありますが、そういう所に気軽に行けるという事はありますね。大学で学んでいる人の中にはそういう所は関係ないと思っている人もたくさんいるわけで、フラにも海にも関心のない人ももちろんいますし。
私たちのようにハワイに好きな物がたくさんあると、海にも行けるし、いろいろな場所のイベントを見に行けるし、ということで大学でのペースとそれ以外の観光地でのペースといろいろと楽しめるという事はありますね。
-学校ものんびりしているのですか?
古賀:それがそうでもないんです、やはりアメリカなんですよね、大学は特に。先生方もハワイ出身の方の方が少ないし、学生にしても大学院になると国際的な感じで。私のいる学科も同じクラスメイトでハワイアンの方は1人、2人ですよ。
確かに裸足で歩いていたりする人もいますが、中味はアメリカなんですね。けっこう厳しくて忙しくて学生は大変なので、私たちの生活はハワイに住んでいると言っても特殊なのかもしれませんね。いわゆるアメリカに留学した学生という立場なんですよね。学校と家の行き来が中心だし、海に行く時間もなくて、だからこそフラのレッスンに行ったりすると、ローカルの人達に会えるので嬉しいんです。ピジンイングリッシュを聞けたり、フラの事で山に行ったりとか。
大学生活自体はアメリカ、でもフラや外に出ていろいろな事に参加するとハワイ、という感じですね。
-ハワイ生活でおすすめの場所はありますか?
古賀:結局あまり時間がなくて、出歩いてないんですよ。学期中は日焼けすることもあまりなくて。私はアラモアナビーチの夕焼けを見るのが大好きです。あとはサンセットビーチで本を読んだりするのもいいですね。
古川:ボーダーズに行くとハワイのミュージシャンがCDのプロモートをやっていることがよくあるのですが、それを見に行ったりするのも好きですね。まず信じられないぐらい観客とミュージシャンの距離が近くて、ステージのすぐ横にイスが並べてあって、質問にも答えてくれますし。『ちょっとCD出したから、みんな来てくれよ』という感じでやっているのがとてもいいですね。
-最後に本のPRをお願いできますか?
古川:フラをしている方、ハワイアンミュージックをしている方、ハワイの好きな方達に広く読んでもらいたいと思っています。ハワイの人がハワイの人に向けて書いたハワイアンソングの本なので、それを是非日本の読者の方に読んでもらって、共通の土台を作るきっかけになればいいなと思います。
101曲ありますからご存じない曲もたくさんあると思いますので、今後のモチベーションにしてもらえればいいと思います。
-ハワイ語を知るきっかけにも役に立ちそうですね。
古川:そうですね、最初の導入の部分はハワイ語、ハワイ文化はこういうものですと説明しています、特に歌の中で使われている言葉というのはこういう特徴がありますというふうに。フラの曲を覚える上でのコツですね。
例えば、行の最後の言葉が次の行の最初の言葉に使われている、似た音の言葉がちりばめられているなど。それが曲を覚える上での手助けにもなっています。ハワイの創世神話のクムリポにあるように、神話上この植物とこの動物は関係していると思われているとか、それが音の響きだけではなくて、記憶を助け、つながりをだすために歌の中に使われているとか、そういう詞の特徴というのが曲を覚えるためにも役に立つと思うんですね。
日本でフラのワークショップを受ける時でも、この本で予習をしておけば、少し楽になるのかなと思います。
古賀:ハワイ語の入門書でもありハワイ文化入門書でもあり、ハワイアンソングのひとつの情報源でもありますので、是非活用してもらえればと思います。
-こういう本が日本でも出版される時代が来たんですね。ありがとうございました。
(2007年6月オアフ島 ハワイアナホテル プールサイドにて)
聞き手:kaimanahila
Toshiaki Furukawa's Websitehttp://toshiakifurukawa.blogspot.com/
古賀まみ奈のウェブサイトhttp://kogamamina.blogspot.com/
『アンティ・ノエとエルバート教授が教えてくれた 101曲のハワイアンソング』
イカロス出版http://www.hulastyle.jp/

