”TMT建設計画”と”Protect Mauna kea ”をさらに深掘り
”TMT建設計画”と”Protect Mauna kea ”
ハワイイで今何が起きているのかを読み解く
日本に住みながら
ハワイイを愛する自分は何を知り
どう理解すれば良いのか
3回に分けて、歴史、ニュースなどをもとに考えてみる「中編」
書くことが多く、状況も変化しているため
三回に分けることにした
すいません! (三回目の後編が未完です 5/15)
私は、基本的に“Protect Mauna kea”運動を
支持すると前編で書いた
その考えの上で書いてはいるが
ここで書いていることは、その正しさを証明するためでもなく
皆さんに賛同を求めたり、説得をするものではない
私が調べて知り得たこと、考えたことをそのまま書いている
私自身、ハワイイ行きは100回を越え
ハワイイ音楽についての書くことをライフワークとしている故に
ハワイイにも多くの友人知人ができたが
そのほとんどが“Protect Mauna kea”派の人達だ
最新の世論調査では建設賛成派が6割強
”最近の世論調査ではハワイイの6割以上の人達が建設賛成
建設反対派は3割程度との結果が出ている”
(この結果には住民の構成比など異論もあると思うが後編で)
この数字を見て気づかされたが
私はマイノリティーのグループに近く
そのコミュニティーと触れ合ってきた
ハワイイをマイノリティー・サイドから
いつも見ていたのだ
たとえば、ハオレの大金持ちとか
ビジネスで大成功している人
メイン・ランドからリタイアして悠々自適に暮らしている人
トランプ・ホテルの上階に住んでいる人などは
まったく知り合いがいない
ミュージシャン、フラ・ダンサーなどがほとんどだ
日本でも、周辺には“Protect Mauna kea”派に
シンパシーを抱いている人たちがほとんどで
無条件に“Protect Mauna kea”派は
正義と思い込んでいる人も多い
(マウナ・ケアへの道路を封鎖しているのが
郡や州政府だと思っている人がいるのには驚いた)
しかし、今回、すべての正義が
“Protect Mauna kea”派(これから保護派と略す)にあり
悪が”TMT建設推進派”にあるとはいい切れない
保護派がサドルロードを封鎖したことは法的には違法であるし
建設許可を出した工事をおこなうために
違法な人達を排除し
その過程で緊急事態宣言を出すのも
行政のプロセスとしては仕方がないのかも知れない
(人道的、心情的な問題、宣言が必要であったかは問わないとして)
その中で、クプナと呼ばれている
お年寄り達が最前線で座り込み
そのために拘束されてしまった
2015年に続いて
逮捕者を出してしまったのは残念であった…
しかし、その後は、保護派の
”ALOHA KAPU”の精神が浸透し
行政も穏やかな対応になり
大きな混乱や暴力的な行動が起きていないのは
賞賛に値する
(”ALOHA KAPU”については後編で再度触れる)
今回の運動は市民運動の
新しい形を示すことになるかも知れない
何故、クプナ達は最前線へ
繰り返しになるが
7月15日の建設開始予定日から始まった
道路封鎖の結果
7月18日には妨害行為で34人が逮捕された
これを受けてデービッド・イゲ(David Ige)ハワイ州知事は
非常事態宣言を発令したのだが
この時拘束されたのは
道路封鎖の最前線にいたクプナ達だった
何故お年寄り達が最前線に?
この疑問を
その時期に来日していたミュージシャンに質問してみた
彼のファミリーは、ハワイイアンの政治、文化の名門一族で
両親共にハワイイ文化を教え、伝える立場にあり
家庭で日常的にハワイイ語をしゃべっている
「クプナ達は50年前のケジメを自分たちで付けようとしている」
「1964年マウナ・ケアに天文台をつくるとなったときに、
いまの状況を想像できずに、建設を許してしまったことを悔いているんだ」
「だから、いま彼ら、彼女らは厳しい環境の中で最前線に立っているんだよ」
彼はそう教えてくれた
衝撃的な答えだった!
50年の時をさかのぼっての“Protect Mauna kea”
いま目の前にある”TMT建設計画”だけを見ているのではないのだ
それは、さらに理不尽に滅ぼされてしまったハワイイ王国
(いま歴史的に顧みれば
ハワイイ国王達の政治的未熟さによる必然と読めなくもないが)
その後のアメリカがおこなった不当な支配
奪われてしまった、言葉、土地、ハワイイアンの心など多くのモノ
それは、1895年にまでさかのぼることになるのだ
そして、これからのハワイイとそこに生きていく子供達のために
クプナ達は立ち上がり、自らを犠牲にしたのだ
子供達にハワイイアンの生き方を見せるために
再度、TMT計画とは
そう、この問題はここまで深いということを念頭に置いて
TMT計画を掘り下げていく
現在、SNSなどでは事実誤認の書き込みがあまりにも多いので
(予算、各国の関わり方、TMTの実態などなど…)
まずは、事実は何かを調べていきたい
現在、TMT計画と同様の大口径レンズを持った天体望遠鏡建設計画は
マウナケア以外、世界の2カ所で進められている
それぞれ、各国の大学や研究施設が共同で進めているわけだが
天体望遠鏡のトレンドは大口径レンズで計画は以下のようになっている
TMT
レンズ直径 30m
予算規模 1,800億円
完成予定 2027年(建設予定が未定のため遅れが出る)
場所 ハワイイ島 マウナ・ケア山頂
メンバー 米国、日本、カナダ、中国、インド
GMT
レンズ直径 22m(8.4mx7枚を組み合わせる)
予算規模 1,100億円(推定)
場所 チリ共和国のラスカンパナス天文台
完成予定 2023年に4枚で初期運用(7枚全体の運用は2025年)
メンバー 米国(カーネギー天文台ほか)、韓国、オーストラリアなど
E-ELT
レンズ直径 39m
予算規模 2,000億円(推定)
場所 チリ共和国のアタカマ砂漠
完成予定 2027年
メンバー 欧州南天天文台(15ヶ国)ブラジル
各天文台は早期完成へしのぎを削っている
大型望遠鏡を使っていち早く成果を出すことが
天文学のリーダーシップを取れるからだ
TMTが建設を急ぐ理由もそこにある
もし、2021年に工事が出来ることになっても
初期の計画から5年以上遅れていることになる
完成予定は2030年頃
そうなれば、他の巨大望遠鏡の後塵を拝することになる
(北半球ではTMTのみという強みはあるが)
計画期間が長くなれば予算も膨らんでいく
TMT計画では、ハワイイを断念した場合の
代替え地を選定していて
”PlanB”と呼んでいる(これも詳しくは後述)
すでに、スペイン領カナリア諸島が選定されている
TMTのスポークスマンは
「現在、移転という選択はない」といっている
この選択も時間とお金と
ハワイイ州の対応にかかってくるのだろう
TMT計画はどのように始まり、日本が参加した経緯はどのようなことだったのか
TMT計画は2006年ごろにカリフォルニア大学と
カリフォルニア工科大学が立案した計画で
建設予定地はチリかマウナ・ケアとなっていて未定だった
日本は2002年から独自に30M級の望遠鏡を計画していたが
予算規模が2000億円にもなることが分かり
単独では不可能と判断した
そこで、2005年になると
国際協力の可能性を探り始めたという
国際協力に参加するには条件があった
すばる望遠鏡を活かすために
ハワイイでの建設が条件だった
国立天文台 名誉教授で
立ち上げから現在までTMTに関わっている
”家 正則氏”は2015年のインタビューで
「私たちはハワイにある、すばる望遠鏡を活かしたかったのです
すばる望遠鏡は広視野のカメラを持っていて
広い空を探して貴重な天体を見つけるという機能が優れています
この機能を活かしながら、次の天文学を進めるためには
日本が参加する次世代の望遠鏡はハワイでないといけません
そこで、TMT計画を練っていた米国とカナダに
もしTMTをチリでなくハワイにつくるという決断をするなら
日本はこれに参加するべく予算要求しますという提案をしたのです」
(2015年11月号 産学官連携ジャーナル)
当初、米国とカナダは様々な調査結果から
マウナ・ケアでの建設には現地での
土地使用許可などに時間がかかるため
チリ建設に傾いていたという
ちなみに、当時の調査では建設開始は
2014年頃になるだろうと
ピタリ言い当てていたそうだ
しかし、日本の提案に
米国やカナダは予算の面
TMTがチリにできると三つの計画すべてが同地域になり
北半球の観測が出来ないという状況も考慮し
建設地をハワイイで推し進めることにし
日本を招き入れた
2009年には、正式にハワイイに建設地を決め
マウナ・ケア山頂への建設を申請した
その後、中国とインドが加わり
日本、米国、カナダ、中国、インドの
5カ国の国際協力事業となった
国立天文台の意志がハワイイ建設に至る
すべてであったとはいわないが
方向性を決める大きな要因であったことは確かだ
日本の皆さんがいろいろ書いている予算の問題だが
現在、建設予算(約1800億円)の21%を支出する予定で
国内経費も含め415億円を見込んでいる
(計画延期で支出は増える見込み)
国別で言えば米国が45%を支出する
(予算については後編で詳しく)
TMT計画は行政にとってウィン・ウィンの関係
このように書くと
TMT側が一方的にハワイイに建設と決めたようになるが
当然、ハワイイ州側からの誘致もあった
経済効果、天文学はハワイイというステータスの獲得
教育分野への貢献などを想定している
それは、土地のリース料
年間30万ドルからスタートし
建設の経過に伴い金額が上がり
工事10年目には90万ドル
観測開始時からは100万ドルになる
土地リース代の8割は
マウナケアを管理する”マウナケア山頂管理事務局”に支払われ
残りの2割はハワイ人関連問題事務局(OHA)に
支払われることになっている
さらには、建設時の約10年間
建設業を中心に300人の雇用
完成後も運用の経済効果は年間2600万ドル
雇用は140人を想定している
教育に関しては
TMTはハワイイ島の学生のために「ハワイイ島THINK基金」創設し
年間100万ドルの寄付をすることを始め
島内の教育機関への寄付をおこなうことを決めている
(リース料、雇用のデータは国立天文台TMTプロジェクトHPより)
このような側面もあり
ハワイイ州を始め各種行政機関にとっては
TMTとウイン・ウインの関係であることが分かると思う
この条件だけを見れば、住民にとっても良いこととなる
私の持論だが、物事というのは球形をしていると思っている
360度どこからでも見ることができる
一カ所だけから見ると本質を見誤る
不幸だと思えることが、見る場所を変えると幸福になる
出来るだけ多くの視点から物事は覗くべきだ
TMT計画賛成派はどう語っているか
ということで、TMT建設賛成派の意見も紹介する
7月22日 の “Hawaii News Now”に
祖父がネイティブ・ハワイイアン
自身もカメハメハ・スクールを卒業している
80歳の男性の話が紹介されていた
「TMTをサポートする多くのハワイ先住民を知っているが
この問題があまりにも文化的な問題になって以来
公には何も語らなくなったといっている」「望遠鏡が提供するであろう学問的知識
そしてすでに学生達が利用可能な教育の機会は
州だけでは実行できない利点だ」「若い学生や子供たちが先に進む機会
そして彼らが得ることができるものは
私たちが決して得ることが出来なかったことだ」という
保護派の抗議行動は大きくなるが
賛成派の声はあまり聞こえてこない
彼らは、自らを「サイレント・マジョリティー」と称する
2018年10月ホノルル・スター・アドバタイザーがおこなった
(調査対象800人)
世論調査ではネイティブ・ハワイアンの72パーセントを含む
77パーセントがプロジェクトを支持しているとしている
(世論調査に関してはいろいろあるので後述)
(このコラム冒頭に書いた6対3の調査は2019年の他の調査結果)
ハワイイ商工会議所の執行役員マイル・ヨシオカ氏は
天文学が州の経済を多様化させ
1960年の津波やサトウキビ産業の衰退により
壊滅的になったハワイイ島の経済を回復させたという
「州全体が、天文学によって経済的に支えられている
1,400の仕事があり、ハワイイ島で年間9000万ドル
州全体では約1億7000万ドルの経済効果がある」そうだ
多数派は少数派に寄り添って物事を決めることが大切
推進派も保護派も子供達の未来に目を向けている
実際問題として、何が正解かは時が経たなければわからない
天文台によってハワイイ州、ハワイイ島の経済、教育などは恩恵を得ている
TMT計画によって、その規模は飛躍的に増大するだろう
推進派はその恩恵がハワイイの未来に繫がると主張する
保護派は、望遠鏡だけの問題ではなく、
ましてや、科学を否定するわけでもない
ハワイイアンのあるべき姿、生き様、自分たちが歩んできた道
ALOHA `AINAとは KAPU ALOHAとは何かを
身をもって、後世に伝えようとしている
それは、今しかないと彼らは主張するのだ
私見ではあるが
推進派と保護派では覚悟が違う
時とともに、保護派の意志はKAPU ALOHAで統一され
SNS、メディアにアピールし力を増しそうだ
そして、建設開始が2年猶予されたことにより
(2年延長ではなく、今後2年以内に工事を再開する)
その間、保護派は、より論理的になり
世界にアピールできる、ハワイイアンの姿を構築していくだろう
もうすでに、保護派の人々はTMT問題の先にある
活動方向、未来のハワイイアン達と進む道が見えてきたような気がする
さて中編は、ここらあたりで終わりとする
後編では、さらにTMT計画の具体的な詳細
その予算に対する国立天文台の関わり方
Bプラン移行はあるのか?
“Protect Mauna kea”派が体現するKAPU ALOHAのこと
さらには、日々変化する情勢などなどでまとめたい
最後に
驚く話しを付け足しておく
すばる望遠鏡が払っている土地の使用料は年間1ドル+観測時間
TMTは
マウナケアの望遠鏡では初めて高額のリース料として
最終的に年間100万ドルを払う
これは書いたが
初めてとはどういうことか…
既存の天文台は…
前編でも書いたが
この土地は”BLNR”がハワイイ大学に
運営の権限を与え、貸しだしているが
これまで50年以上ハワイイ大学が払っている土地の使用料は
年間1ドルを超えたことがないという
さらに、ハワイイ大学が
13の天文台から受け取る使用料も年間1ドルのようだ
前出の家政則氏の話によると
「すばる望遠鏡の建設地は,ハワイイ大学から
国立天文台が年間1ドルの借地料を支払う代わりに
ハワイイ大学の研究者に年間52夜の観測時間を提供するという
転貸借協定により使用権を得て 建設運用を行ってきた」そうだ
1ドルとは…
後編に続く